ジーシーメンブレンによるII級根分岐部病変の治癒過程

GC CIRCLE No.84
歯科治療の進歩はここ数年急激に変化してきている。Nymanら(1982)および Gottlowら(1984)による治癒過程の中で歯根膜細胞を根面に沿って増殖させることが試みられてきたが、これが今で言われるところの組織誘導再生療法(GTR法)の第一歩であったと考えられる。日本でも、歯周疾患における治療法は、数年前にGTR法が紹介されて以来、従来から行われてきていた歯周外科という概念を大きく変えてしまったように思われる。GTR法が歯周治療に取り入れられた当初は非吸収性膜(e-PTFE膜)が主流であり、従来よりの歯肉剥離掻爬術によって得ることが困難とされていた新付着の獲得がなされるようになった。このGTR法が広く行われるようになると同時に、吸収性膜の研究がなされ、ここ数年前から吸収性膜もGTR法に用いられるようになってきている。非吸収性膜の適応症であった根分岐部病変や骨内欠損へのGTR法が確立される中で、吸収性膜の適応症であるII級根分岐部病変や3壁性骨内欠損などへの的確な診断のもとでのGTR法を行うことにより、非吸収性膜と同等の結果が得られることが知られてきた。

そこで、下顎右側第一大臼歯頬側歯肉腫脹を主訴として来院した女性患者(53才)に、歯周初期治療とブラッシング指導、スケーリング、ルートプレーニングを行った後に、GTR法の適応症であるII級根分岐部病変に吸収性膜(ジーシーメンブレン)を用いた手術を行ったので、術式と治癒過程を順を追って説明することとする。

なお、本症例は今年の第40回日本歯周病学会春季学術大会でポスター発表したものである。

 


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術直前にアタッチメントレベルを計測しておく(この時点で歯肉は可及的に健康な状態にしておく)。
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歯肉弁を剥離したところ、頬側に II級根分岐部病変が認められた。 分岐部内の肉芽を完全に除去し、根面をルートプレーニングし終わった状態。
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ジーシーメンブレンは吸収性のた め、トリミングは試適膜で行っておく。トリミングは分岐部、根面を完全に被覆し、さらに周囲骨を3mm以上覆うことを確認しながら行う。
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試適膜に合わせてジーシーメンブ レンをトリミングした状態。この時に、試適膜に血液等が付着しているとトリミング時にメンブレンが膨潤してしまうので注意が必要。
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添付されている吸収性の縫合糸を用い、歯面と緊密に接する様に注意しながら歯牙へ固定してゆく。メンブレン固定後はプローブ等を用いて歯面との間に上皮が入るスペースがないことを確認しておく。
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歯肉弁を縫合する前に、頬側に減張切開を加え、メンブレンをテンションが加わることなく覆えることを確認し、メンブレンに近い歯肉より縫合をすすめていく。
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術後1週目。この時期までは患者によるプラークコントロールは一切行わせず、週2~3回来院させて、術者によるプラークコントロールを行う。
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術後3週目。術後1週目より縫合糸を順次除去していく。歯肉が安定した状態になるまで懸垂縫合のみを残しておく。患者によるプラークコントロールが完全に行われているのがわかる。
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術後4週目。この頃になると歯肉が健康状態となり、辺縁歯肉も安定した状態となっているのが確認できる。
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術後3ヵ月目。この時期になると術前とほぼ同程度に辺縁歯肉の位置が落ち着いてくる。歯間乳頭部の歯肉も安定した状態になっている。
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術後6ヵ月目。術前に8mmのアタッチメントロスが認められた同部への計測が可能となった。今回は、4mmのアタッチメントレベルを認めたことにより、4mmのアタッチメントゲインがあった。
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術後1年目。辺縁歯肉に炎症症状や位置の変化は認められず、術前とほぼ同等の状態が維持されていた。
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術後2年目。術後1年目と同様に特に変化を認めることなく、歯肉の健康状態が維持されていた。
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術前のX線写真。分岐部にややX線の透過性が認められる。
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術後2年目のX線写真。術前と比較して分岐部の不透過性が増してきているように思われる。
著者

白井 義英

大阪府豊中市開業 大阪歯科大学 歯周病学講座 非常勤