T-アロイタフを用いたチタンの臨床例

GC CIRCLE No.82

昨今、歯科領域において金属アレルギーに対する関心が高まってきている。従来歯科用金属として使用されている金属は通常、生体にとって無為害性、あるいはごく軽微な低為害性とされてきた。しかし、口腔内に装着されている一部の金属製補綴修復物は、唾液や食塊など苛酷な口腔内状況によって腐食性変化を生じ、その金属成分が溶出しアレルギー等の為害作用を及ぼすことがある。その対策のひとつとして筆者は、常温では金属表面に強固な不動態被膜を形成するため極めて耐食性が良く、生体適合性に優れている純チタン(T-アロイH GC社製)を使用して鋳造床を製作しているが、残留たわみが大きいことから特にクラスプの設計、製作には注意が必要である。しかし今回GC社からCo-Cr合金を上回る機械的性質を持ち、為害作用のないTi-6Al-7Nbチタン合金、商品名『T-アロイタフ』が発売された。
このT-アロイタフは、Co-Cr合金に比べて伸びがあり、純チタンに比べて硬く、強いので、床やクラスプの形態を薄く、細く、Co-Cr合金床とおおむね同様に製作することが出来る。高強度でありながら弾性が金合金タイプIVに類似していることや、比重が純チタンと同等と軽く、為害作用がないことを考慮してもクラスプ材としてパーシャルデンチャーに適している金属と思われる。そこで今回、T-アロイタフを使用した鋳造床の臨床例を紹介する。

 

各種金属床用合金の物理的性質

  Type IV
金合金
Co-Cr
合金
純チタン(T-アロイ) Ti-6Al-4V
合金
Ti-6Al-7Nb合金
(T-アロイタフ)
1種(S) 2種(M) 3種(H)
 
比重 16.9 8.4 4.5 4.5 4.5 4.4 4.5
引張強度(MPa) 800 720 380 600 640 970 950
耐力(MPa) 650 550 310 470 490 880 890
弾性率(GPa) 100 200 100 120 126 120 123
伸び(%) 7 3 22 12 11 - 5
硬さ(Hv) 260 360 150 190 220 340 320

 


 


 

1
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製作に使用した模型は、上顎75|56欠損の臨床模型。床はパラタルバー形態とし、鉤のアンダーカット量は金合金タイプIVと同等にした。
2
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クルーシブル フォーマの取付け角度を自由にするため、模型のトリミングをする。また、ワックスパターンはCo-Cr床と同様の厚みで形成する。
3
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サンドブラスト処理終了。鋳造体の荒れもなく良好に鋳込まれている。鋳造システムにあったスプルーイング、適切な湯の溜の取り付けが大事である。
4
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鋳造体の最終研磨終了。不動態皮膜の生成によるのか、純チタンより艶が出やすく、Co-Cr床と遜色ない光沢を放っている。
5
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鋳造体のX線写真。臨床上問題になる鋳巣は見られない。チタン鋳造の鋳巣のほとんどは空洞状欠陥のため、X線で鋳造体を確認する必要がある。
6
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研磨終了後、最終的に模型にセットした状態。適合状態も良好である。
7
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上顎7のエーカース鉤の状態。金合金タイプIVと同等のたわみがあるが、硬くて強い特徴を持っているのでCo-Crより薄く、細く出来る。
8
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上顎5のバックアクション鉤の形態。7同様、鉤腕を細く、シャープな形態に出来る。
9
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T-アロイタフは純チタンと同等の比重で非常に軽い。
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同一模型で製作したCo-Cr床。T-アロイタフ床(写真9)の約1.6倍の重さである。
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床の形態や厚さは、Co-Cr床と同等に製作することが出来る。
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下顎765|67欠損の遊離端のケース。4にレスト、4|5にRPIとし、T-アロイタフで製作した。
13
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15
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下顎4|5のIバーの形態。長いアームでもCo-Cr合金より細く、薄くした形態に出来る。
上顎4321|1234567欠損のケース。 5にエーカース、76に双子鉤とし、T-アロイタフで製作した。
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上顎765のクラスプアームの形態。クラスプがエーカースの様な形態だと、Co-Cr合金線の様に細く出来る。
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写真15の同一模型で純チタンで製作したクラスプアームの形態。純チタンの場合、たわみ量の関係でアームを写真16のT-アロイタフより太くしなければならない。
著者

相馬 一志

神奈川県横浜市開業