サメの歯がザックザク?! 秘密の化石産地のビーチを訪れて

No.157

化石発掘」―そんな言葉を聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。小太りの好奇心旺盛なおじさんが、探検隊みたいな格好をしてツルハシで岩盤を削っている、わたしはそんな光景が目に浮かんだ。だから、初対面の、とても可愛らしい小学生の女の子に「とっておきの秘密の場所があるから化石を探しに行こう」と誘われたときには、耳を疑わずにはいられなかったのだ。

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岩瀬暖花さん(左)と一緒に化石採集を行う筆者。ここでの化石は、発掘ではなく採集(!)で見つけていくのだそうだ。(写真撮影/齊藤靖行氏)

 彼女の名前は岩いわせ瀬暖ほのか花さん。サメの歯の化石採集やその研究に熱心な沖縄県在住の小学5年生だ。指定された待ち合わせ場所は、沖縄本島の東側にある、とあるビーチ。潮は引いている時間なのか、砂浜には少しごつごつした岩肌が顔を出し、その表面には緑色の海藻が覆っていた。この日は沖縄で39年ぶりの雪が観測されたとても寒い日だったが、元気ハツラツな彼女に手を引っ張られながら、サメの歯の化石探しはスタートした。

どうやって探すのかと思ったら、浜辺をひたすら歩くだけ。黒光りするものがあったら、手にとってみて、化石かどうか確認する作業の繰り返し。想像していた化石発掘の光景とはまったく違うイメージ。そんなことを考えているのも束の間、彼女は次々と化石を見つけていく。サメの歯の化石は岩の中に埋まっているものと思っていたが、そうではなく、砂浜の上にポツンと落ちていたり、岩と岩の間に挟まっていたり。海が時化た後が絶好の化石日和だそうで、この日は2時間ほどで、メジロザメ類やホホジロザメの歯、サメの脊椎骨、フグの歯の化石などを見つけることができた。

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この日見つけた黒い化石「メジロザメ類の歯」。(写真撮影/齊藤靖行氏)

専門家によれば、この海岸には新生代新第三紀(2300万年前~260万年前)の地層が広がり、海底の地層が波に浸食されて掘り出され、漂着したものだという。ここは、アジア初記録のメガマウスザメという大変珍しい化石も発見されている、日本有数のサメの痕跡が垣間見られるホットスポットなのだ。

 暖花ちゃんは、月に2回ほどこの秘密の場所を訪れて、化石の調査を熱心に行っている。今までに採集した500個以上のサメの歯の化石コレクションを自宅で眺めるのが至福の時間だと語る彼女の瞳はキラキラと眩しかった。

 

著者

沼口麻子

サメのジャーナリスト
(沼口/浅子)

沼口麻子(ぬまぐち・あさこ)
シャークジャーナリスト

1980年東京生まれ。東海大学海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。小笠原諸島のサメの研究を経てサメに特化した情報発信を行っている。テレビ、ラジオ、雑誌等にて活躍中。2014年より東京コミュニケーションアート専門学校(海洋生物保護専攻)にて講師。両親ともに歯科医師。
【連載】
〈雑誌〉月刊マリンダイビング「サメの魅力」(水中造形センター)
〈WEB〉現代ビジネス「サメに恋して」(講談社)
サイト「SAMECUISE」(サメクルーズ)http://same-cruise.com/ プロデュース