歯科医師こそ趣味

No.128

t歯科臨床に携わって30年、開業して20年が過ぎてふっと振り返ると実に辛くもあり、実に楽しい30年であった。開業というものは、いったん開院したら後へは引けない。地域住民のためにひたすら全力を尽くして診療に当たらねばならない。にもかかわらず、治療上の問題や時には苦情処理に神経をすり減らし、たまの休日は歯科医師会の会務で休日返上。これらを1つひとつ処理し、乗り越えていかなければならず、これが私の院長としての負わされた宿命である。

 ところで、歯科臨床や会務そのものに、遊びの境地、心からそれを楽しむ、いわばその道の達人の域に達した状態の人が私の知人でも多くいる。それはそれとして、大変結構なことだがこの厳しい職業ゆえに“趣味”を持っている人は多いと思う。

 今の私の趣味はと聞かれたら「お酒」としか言えない。何かとっても寂しい響きではないか。

 辞書によると趣味とは「感興をさそう状態。自分の仕事としてではなくて楽しみとして愛好すること」などがある。確かにお酒もあてはまるが、酒だけでは寂しい。やはり趣味は「楽しい!」と思うこと、そしてそれを行うことだ。そしてそのわくわくする気持ちが日々の生活を豊かにすると思う。

 しばらく忘れていた趣味がある。もともと学生の頃に齧っていたが本格的には開業してからである。それは「黒鯛釣り」である。

 「釣りと魚のことわざ辞典」があるほど釣りと魚に関することわざは多い。中国の有名なことわざに『一時間幸せになりたかったら酒を飲め。三日間幸せになりたかったら結婚せよ。八日間幸せになりたかったら豚を殺して食べよ。一生幸せになりたかったら釣りを覚えよ』というのがある。釣りは奥が深く飽きないともとれるが、釣り好きの戯言かも知れない。

 私の住んでいる新潟は海岸線が長く、フィールドは広いがとにかく釣り人の行かない場所を探す。行きやすい漁港は魚より釣り人が多いし、危険回避のため立ち入り禁止の場所も多い。そこで何と言っても人があまり行かない離岸テトラがよい。ただゴムボートで渡るため、多少の危険がともなう。実際何度も海に落ち、テトラで転倒している。

 現地で餌の蟹を捕まえ、静かに落としていく。目印の道糸が走り、ガツンと竿に衝撃が走る。この瞬間がたまらない。格闘の末、鮮やかな銀色の獲物が水面に水音を立てて浮いてくる。興奮の一時である。また、新鮮な魚を食べる喜びは釣り人ならではの特権である。

 「釣りは道楽の行き止まり」なんてことわざは、魚釣り以上の道楽はない、ということだが、どんな趣味も道楽になったらおしまいだ。

 また、「釣りは頭の洗濯」ということわざは実に的を射ている。人間、趣味に没頭し、すべてを忘れる時間が必要という意味である。

 「魚は釣っても釣られるな」イコール「酒は飲んでも飲まれるな」。酒は嗜好品、釣りはあくまでも趣味。まさに私自身に送る言葉、アル中と釣り中に気をつけようである!

 2009年は再度黒鯛釣りに挑戦。アル中から脱却。進取の気象の精神。

 さぁ! いい趣味を見つけて今までの人生に楽しさをもっとプラスして楽しい人生を送りましょう。考えただけでも幸せになれそうです。

著者

松崎 正樹

新潟県新潟市 松崎歯科医院・歯科医師
(まつざき まさき)

松崎正樹(まつざき・まさき)

1954年生まれ。1979年日本大学歯学部卒業。卒業後、地元である新潟大学歯学部第2補綴学教室勤務。1988年現新潟市(旧巻町)で開業。30代より患者のQOL向上に向け治療に全力を傾け、その効果の永続性を目指しメインテナンス、あるいは予防に力を入れている。また「咬合治療におけるガイドとは 欠損歯列の立場から」歯界展望2003年、「CO2レーザーを効果的に使用するために」デンタルダイヤモンド社2002年ほか文献も多い。2003年より新潟県歯科医師会常務理事として在籍。新潟大学歯学部非常勤講師も務める。趣味はゴルフ、釣り、スキー、オールディーズ、そしてお酒である。