夏の始まりは氷朔日(こおりのついたち)


image-20220510151302-1  近年すっかり忘れられていますが、旧暦6月1日は清少納言や紫式部も楽しみにした「氷朔日(こおりのついたち)」。今年の旧暦6月1日は7月8日です。

  平安時代、この日に氷室の氷を口にすると夏負けしないと信じられ、いわば、夏バテ防止の魔除けの行事食。宮中では身分の低い人にまで氷片が振舞われました。

  あてなるもの。削り氷にあまづら入れて、新しき金まりに入れたる。(「枕草子」第三十九段)

  枕草子に当時のとても上品なものの代表として「氷室から運んだ貴重な氷を薄く削って新しい金属製のお椀に入れて盛りつけたもの」と記されているのを見る と、氷室から運んだ貴重な氷を薄く削った氷を新しい金属製のお椀に入れ、ツタの他にもアマチャやマチャヅルなど諸説あるようですが、『日本古代食事典』に よればブドウ科のツタから採取した液を煮詰めて作った甘いシロップをかけて食べたようですね。

  冷蔵庫などない当時の人にとって、暑い夏に氷を食べられるのはこの上なく贅沢なこと。しかも、当時の女性でカケラとはいえ氷が食べられるのは、才能や家柄を認められて宮中で暮らしているセレブの証し。清少納言がちょっと得意げなのも微笑ましいです。

  歴史的にも1988年に長屋王邸跡から「都祁氷室」と記された木簡が発見されて、8世紀初めの氷室の実態が明らかになりました。1991年には奈良市で8世紀末~9世紀初頭に造られたと見られる氷室の遺構が出土しています。

  時代がくだって、江戸時代には加賀藩が冬の間に氷室に雪を貯蔵しておき、旧暦の6月1日に氷室を開いて、その雪を4日かけて江戸へ運んで、将軍に献上していたそうです。

  旧暦6月の一日に行われたのが氷朔日なら、最終日の30日に行われたのは「夏越祓え(なごしのはらえ)」。1年の前半の最終日にあたり、この日は半年の間 に積もった穢れを流す大切な日と考えられていました。今も各地の神社では「夏越祓え(なごしのはらえ)」が行われ、茅(かや)で作った輪をくぐったり、形 代(かたしろ)という紙の人形に穢れを移して川に流したりすることで無病息災を願い、厄除けをしています。もともと、この時期は農作業が終わって体に疲れ が溜まっている頃。禊(みそぎ)をすることで健康維持や除災を祈願する意味もあったのでしょう。

  気象庁の予測では、今年もまた猛暑になりそうです。熱中症対策としては服装や冷房の使い方を工夫して、生活リズムを崩さないことが一番。たまには、かき氷に甘い蜜をかけ、素敵な器に盛りつけて、清少納言をしのぶのも楽しいですね。

 

コラムニスト 鈴木 百合子

 

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