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歯の白黒

No.198

image  最近のテレビを観ていて感じるのは、みなさん、特に若い人たちの歯がとても白いことです。
 生まれつきの白さや手入れが行き届いていることも少しはあるでしょうが、多くの方はホワイトニングをされているように思います。それほどに真っ白な歯をなさっているのです。
 歯科医院で、もしくは自宅でホワイトニングをするのは、今や身だしなみのひとつとされているようですが、なぜそれほど歯の白さが人気を集めるようになったのでしょう。
 ひとつには健康志向の一環だろうと思います。黄ばんだ歯より、白い歯のほうが健康的に見えますから。
 そしてもうひとつ。白い歯はオシャレだという流れです。つまりホワイトニングはファッションのひとつに数えられているようです。
 もちろん汚れによって着色している歯は論外ですが、白い歯=オシャレという図式は、近年になって高まったように感じます。
 肌の色が異なるように、歯の色も人種によって多少の差異があり、我々日本人のような黄色人種は、黒人や白人に比べて黄みがかっていることが多いのです。それはエナメル質の薄さが原因だと言われています。
 したがって自然のままだと、黄ばんで見えるのがふつうなのですが、それを良しとしない傾向になってきたわけです。
 その源となったのは、今から30年ほど前のテレビCMでしょう。
 〈芸能人は歯が命〉というキャッチコピーには〈白〉という文字は含まれていませんが、出演タレントさんの歯が真っ白だったことから、歯の白さが俄然注目を浴びるきっかけになったのでした。
 このころからまずテレビに登場するタレントさんの歯が白くなり、それに憧れる一般人も白い歯になりました。
 それから30年経った今では、芸能人だけでなく、アスリートやコメンテーター、アナウンサーまで、多くの方がホワイトニングをなさっているようで、白い歯は常識のようになってきました。
 こんな現代からタイムスリップして、江戸時代に戻ると、真っ黒な歯、すなわちお歯黒(鉄漿かね)が一般的だったのですから、今とは正反対だというのが興味深いですね。
 西暦938年に刊行された、日本最古の辞書と伝わる〈和名類聚鈔わみょうるいじゅしょう〉には既に、歯を黒くするための化粧道具が存在したと記載されていますから、千年近くもの長いあいだ、日本では黒い歯がオシャレだとされていたことになります。
 それに比べれば、真っ白な歯がオシャレとされているのは30年ほどに過ぎないのですから、歴史からすると一時的なもの、かもしれませんね。
 それにしても、なぜ歯を黒く染める習慣が生まれたのでしょう。次回はそのなぞ解きを試みることにします。

著者
柏井 壽
歯科医・作家
(かしわい・ひさし)

柏井 壽 (かしわい・ひさし)

1952年 京都市生まれ

1976年 大阪歯科大学卒業

京都関連、食関連、旅関連のエッセイ、小説を多数執筆。

代表作に『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)、『日本百名宿』(光文社文庫)、『京都力』(PHP新書)などのエッセイ集、世界30ヵ国で翻訳出版されている『鴨川食堂』(小学館)や『祇園白川小堀商店』(新潮社)、『うみちか旅館』(小学館)などの小説がある。