歯医者をしながら女優をしています ~女医とバラエティ番組~

No.146

146最近テレビをつけると、やたらとバラエティ番組ばかりが放送されている気がする。

 バラエティ番組とはドラマやニュース、歌番組などの特定のジャンルに当てはまらない番組のことだ。昨今は芸人全盛の時代。芸人さんが司会を務め、出演者も芸人さんが多い。

 こんな私にも、バラエティ番組から出演の声がかかることがある。しかし私は、バラエティ番組がそれほど得意ではない。というより、苦手である。

 4年前、生まれて初めて出演したバラエティ番組は『踊る!さんま御殿!!』だった。大勢の芸人さんに囲まれ、状況が飲みこめていない私に、明石家さんまさんが質問した。

「一青さんは歯医者さんで女優さんもやっているんですよね」

 さあ答えようとしたその瞬間、隣の芸人さんが「知ってます! すごいですよね、それで…」としゃべり始めた。その後も、私の話題に他の人がどんどんかぶさってきて、ほぼ発言ゼロのまま、収録は終了。後日放送を見た友人から「妙ちゃん、なんのために出ていたの?」と笑われ、とても落ち込んだ。

 数ヶ月単位の仕事であるドラマや映画に比べ、バラエティ番組は数時間で終わり、オファーも収録の1、2週間前に突然舞い込む。スタジオに入ると内容を打ち合わせてすぐ本番。セリフを覚え、撮影が深夜にも及ぶドラマよりも楽な仕事と言えなくはない。

 しかし、セリフと出番が決まってない以上、人の話に割り込み、面白く話せない人には永遠にチャンスが回ってこない。バラエティ番組の現場は見えないマイクを奪い合う戦場のように思えた。

 その後、数回バラエティ番組に出てみたが、普段から人見知りが激しく、人間関係は平和主義者で、聞き役に回るタイプの私は、どうしても適応できなかった。

 昨年、フジテレビの『ペケポン』というバラエティ番組から「女医チーム」の一員として出演しないかと誘われた。気は乗らなかったが、マネージャーから「これで失敗したらバラエティの仕事はもう受けないから」と半ば無理やり出演させられた。

 「どうせ最後だから」と開き直り、白衣を着て、赤い縁の伊達メガネをかけた。髪形も普段と少し変えて、いつもよりも大胆にしゃべってみたところ、なぜかスタッフの人たちから面白がられ、その後も番組に呼ばれるようになった。

 バラエティ番組への苦手意識は変わらないが、出演者の中で「女医」という立場に徹することで自分なりのキャラクターを作れるコツが少し分かってきた気がする。考えてみると、「女医」という立場は便利で有り難いものだ。医師という肩書きで白衣を着れば不思議と周囲の人が「立派な人なのではないか」という幻想を抱いてくれる。さらに「女性」がつくと、勝手にイメージを膨らませてくれるのかもしれない。

 最近では、歯科大に入学する学生の7割が女性だと聞いている。学会に出れば、才色兼備な女医さんたちがたくさん活躍している。そんな皆さんを代表する資格などこれっぽっちも無いのだが、バラエティ番組からお呼びがかかる限り、世の中の「女医さん」へのイメージをなるべく壊さないようほどほどに頑張ってみたい。

著者

一青 妙

歯科医師・女優
(ひとと・たえ)

一青 妙 (ひとと・たえ)

1970年生まれ。父親は台湾人、母親は日本人。幼少期は台湾で育ち、11歳から日本で暮らし始める。 歯科医師として働く一方、舞台やドラマを中心に女優業も続けている。 また、エッセイストとして活躍の場も広げ、著書に『私の箱子(シャンズ)』(講談社)がある。