口腔機能発達不全症とは?

1)背景

 2015年に日本歯科医学会重点研究委員会で実施した「子どもの食の問題に関する調査」で、未就学児の保護者の50%以上に、子どもの食事に関する心配ごとがあることが判明しました。同調査によれば、「偏食」や「食べるのに時間がかかる」、「むら食い」、「遊び食い」など食行動に関する項目が多く見受けられました。このような困りごとは、食べる機能の問題と関連していることが多く、歯科におけるアドバイスや指導で改善することも珍しくありません。以前から全身的に何らかの病気があって、食べる機能に障害をもっている子どもに対する摂食機能療法は、公的医療保険の対象となっていて、歯科において食べる機能の訓練を受けられていました。その一方で、全身的な病気や障害のない子ども(定型発達児:いわゆる健常児)の場合、食べる機能を含めた口の機能の訓練は、保険診療の対象とはなっていませんでした。そのため、2018年の3月まで、口の機能発達に関する指導や訓練は、保険外の自費診療で受けるしかありませんでした。

2)公的医療保険への「口腔機能発達不全症」の導入

 2018年(平成30年)4月から公的医療保険の対象となった口腔機能発達不全症は以下のような状態をさします。

  • (1)「食べる機能」、「話す機能」、「その他の機能(呼吸を含む)」が十分に発達していないか、正常に機能獲得ができていない。
  • (2) 明らかな食べる機能の障害の原因となる病気がない。
  • (3) 口の機能の正常な発達において個人的な、あるいは環境的な原因があり、専門的な関与が必要である。

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 口の機能の発達に何らかの遅れがあり、歯科医療機関において「口腔機能発達不全症」と診断されれば、一定の基準に従って、公的医療保険により歯科で指導や管理が受けられるようになりました。また、2020年4月の診療報酬改訂により離乳完了前(授乳期間を含む)の時期も、指導や管理の対象となりました。

 「口腔機能発達不全症」と診断された場合、約12か月間を目安にその子どもの状態に応じた指導と管理を継続して受けることができます。その間、1か月に1度の割合で通院して指導を受けながら、症状の改善について再評価を受けることになります。15歳頃までの成長発育期にある小児が対象です。図20に示すような状態でしたら、歯科で診察を受けるとよいでしょう。

 

口腔機能発達不全症」の可能性がある状態

 

1)哺乳量・授乳回数が多すぎたり少なすぎたりムラがある
2)離乳食が進まない
3)食べ物の噛み方がおかしい
4)食べるに時間がかかる
5)食べるときの飲込み方がおかしい
6)なかなか飲み込むことができない
7)丸飲みしてしまう
8)食べこぼすことが多い
9)発音がおかしい
10)いつも口を開けて息をしている
11)指しゃぶりをやめられない
12)その他の口の癖がある

3)歯科での相談について

 どの歯科医院でも口の機能の問題について指導や管理が受けられるとよいのですが、実際には大学病院の小児歯科や子どもを中心に診療を行っている歯科医院でないと、なかなか専門的な指導や管理が受けられないかもしれません。大学病院以外でも公益社団法人日本小児歯科学会認定の小児歯科専門医でしたら、口の機能の指導や管理が受けられます。同学会のホームページで小児歯科専門医が公開されていますので、近隣の歯科医院を探してみるとよいでしょう。

 

 

著者

木本 茂成 先生

神奈川歯科大学歯学部 小児歯科学講座 教授