話す機能の発達

通常の発達をしてる子どもでは、5歳の終わり頃までに舌っ足らずの幼児性の発音から成人の発音に移行します。5歳以降で発達の遅れや聴力の異常がない状態で発音に問題がある場合、次のような歯科的な原因によることがあります。歯科における対応が困難な場合には、小児科や言語聴覚士による専門的な評価が必要となる場合もあります。

(1)指しゃぶりなどの口の周りの癖によって歯並びや噛み合わせの異常を生じて唇を閉じにくい。(乳歯列開咬、図4)

 全ての乳歯が生え揃う3歳以降も癖が続いている場合には、本人に対して説得を行い癖の中止を試みる必要があります。歯科において相談を受けてください。早期に癖が中止されると噛み合わせの異常は改善してきます。

 

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(2)むし歯やケガで前歯が失われているか、歯の根の部分しか残っていない。(多数歯う蝕:図5)

 歯の生え代わりよりも前に乳歯の前歯が抜けてしまった場合は、永久歯が生えてくる6~7歳ころまで取り外しのできる乳歯の入れ歯を使うことが推奨されます(可撤保隙装置:図6)。幼児期に前歯のない状態が長く続くと、正しい発音の学習が遅れたり、食品を飲み込む際の舌の動きの異常(乳児型嚥下の残存による舌突出)を招き、噛み合わせの異常(開咬)の原因になることがあります(混合歯列期開咬:図7)。

 

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(3)舌小帯(舌の先端の下面にあるスジ)が短いために舌の動きが制限されている。(舌小帯短縮症:図8)

 舌小帯の付着する位置は成長にともなって、舌の先から徐々に後退して短かくなっていきます。
この変化がおこらない場合、「舌小帯短縮症」という異常となります。この異常は、舌の動く範囲が制限されて発音の問題の原因となります。舌小帯短縮症と診断されたら、歯科において適切な時期に舌小帯の切除を行うとともに、舌の動かし方の訓練を実施します(舌挙上訓練:図9)。多くの場合、通常月に1度の歯科で舌の運動の指導を受け、自宅で毎日訓練を続けると3〜6か月間で、舌の動きは改善して発音の問題は解消されます。

 

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著者

木本 茂成 先生

神奈川歯科大学歯学部 小児歯科学講座 教授