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デンタルIQ と美食の関係

No.196

image  承前。さて、ひとはなぜこれほどまでに、美食を追求するのでしょうか。
 ただ生命を維持するためだけなら、必要な栄養素を効率よく摂取すればいいので、特別なおいしさを求める必要はありません。もちろんまずいより、おいしいほうが食も進むので、ある程度のおいしさは必要だと思いますが、有史以来、ひとは極限までのおいしさを求め続けています。これはほかの生きものにはない特徴ですね。
 19世紀のフランスでベストセラーとなった〈美味礼賛〉という本がありますが、我が国でも江戸時代から、今で言うグルメ本が多く出版され、大いに人気を博したように、人類が進化するにつれ、おいしさは、学問的に探究されるようにまでなりました。
 令和の時代になっても、美食の追求は衰えるどころか、ますます盛んになっているようです。究極や至高といった、どこかの漫画に出てきたような言葉で、美味を表現するのも流行になっています。
 小説やエッセイで美食について書く立場であると同時に、歯科医としても長年食と向き合ってきたせいで、少しばかりおもしろいことに気付きました。
 結論から言うと、いわゆるデンタルIQと美食追求度は比例する、ということです。
 常に口腔衛生に関心を持ち、積極的に定期健診を受け、少しでも異常が見つかるとすぐに治療する。そんなデンタルIQの高い人は、食に対する関心も高く、美食情報にも通じているのです。
 拙著では京都のおいしい店を紹介していることもあって、店情報を教えてほしいと、治療後に訊ねたりされる患者さんは、決まってデンタルIQも高く、予防処置も希望されるほどなので、当然のことながら、口腔状態も極めて良好です。食べ歩きが趣味というご婦人は8020どころか、90歳で24本残っています。
 いっぽうで、美食どころか、食べることにあまり関心がない患者さんは、口腔衛生に対する意識は希薄で、痛みなどの自覚症状がなければ来院されません。そうなると当然のことながら、早くから総義歯を装着されることも珍しくない、となります。
 そしてもうひとつ。美食を求めている方たちに共通する大きな特徴があります。
 それは何かにつけ積極的だということです。
 桜が咲けば花見に出かけ、紅葉シーズンになればもみじ狩に出向く。人気の展覧会があればいち早く足を運ぶ。そして行き帰りにおいしいものを食べる。
 美食好きは決まってアクティブなのです。きっとそのために、口の中の健康状態に絶えず気を配っているのでしょう。
 次回は美食と口腔衛生の関係性について、さらに深掘りしてみたいと思います。

著者
柏井 壽
歯科医・作家
(かしわい・ひさし)

柏井 壽 (かしわい・ひさし)

1952年 京都市生まれ

1976年 大阪歯科大学卒業

京都関連、食関連、旅関連のエッセイ、小説を多数執筆。

代表作に『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)、『日本百名宿』(光文社文庫)、『京都力』(PHP新書)などのエッセイ集、世界30ヵ国で翻訳出版されている『鴨川食堂』(小学館)や『祇園白川小堀商店』(新潮社)、『うみちか旅館』(小学館)などの小説がある。